英国がEU離脱しても経済への影響は軽微

(マレーシア、英国)

クアラルンプール発

2016年06月28日

 英国のEU離脱を選択した国民投票結果について、マレーシア政府首脳は同国経済への影響は軽微とした。マレーシアの対英貿易比率は1%程度にすぎない。一方で、今後の英国経済停滞に伴うポンド安や物価安は、マレーシア企業の対英進出を後押しするメリットもあるとする見方もある。なお、マレーシア政府は、再開されるEUとの自由貿易協定(FTA)交渉への影響はないとしている。

<首相は経済環境の変化に対する耐性を強調>

 ナジブ首相は624日の声明で、英国のEU離脱がマレーシアに与える影響について、マレーシアの健全な経済のファンダメンタルズ、多角化された経済構造、金融市場の十分な流動性を背景に、同国経済は大きな悪影響を被らないと述べた。また、ムスタパ国際貿易産業相は、英国は今後もマレーシアの銀行、教育を中心としたサービス投資における主要プレーヤーであり続け、貿易・投資への影響は中長期的には限定的とした。

 

<対英貿易比率は1.1%>

 投票結果が伝えられた624日の金融市場は、マレーシアを代表する株価指数であるKLCI指数は1,634.05と前日比0.4%安にとどまり、日経平均株価が7.9%安と大きく下落したことに比べると落ち着いた動きをみせた。一方、為替市場では、リンギがドルに対しては2.3%減価の1ドル=4.115リンギとドルへの逃避の動きがみられた。なお、ポンドに対しては、リンギは1ポンド=5.5318リンギと7.5%増価した。金融市場の足元の動きをみる限りでは、株式市場の反応は鈍く、為替市場は安全通貨であるドル買いに集中した格好だ。

 

 貿易面については、ムスタパ国際貿易産業相が指摘するように統計の数字からみても、さほどマレーシア経済に影響を及ぼさないとみられる。2015年の両国間の貿易額は165億リンギ(約4,125億円、1リンギ=約25円)とマレーシアの貿易総額に占める英国の構成比は1.1%にすぎず(輸出比率は1.2%、輸入比率は1.0%)、17位となっており、マレーシアの貿易相手国としての存在感は決して大きくはないのが現状だ(表1参照)。一方、対内直接投資残高は219億リンギと総額の3.8%を占めるだけに、英国経済の停滞が長引けば、マレーシア経済への英国からの投資が落ち込む可能性もある。

表1 マレーシアの貿易における英国の位置付け

<対英投資促進の可能性も>

 産業界もEU離脱の影響は限定的とみる。銀行大手CIMBグループのザフルル・アジズ最高経営責任者(CEO)は、ASEAN企業の中で、英国に多くの投資を行っている企業は影響を受けるが、そうした企業は一握りにすぎず、マレーシアを含めたASEAN経済への影響は限定的とし、短期的には市場変動の影響を受けるものの、英国が実際にEUから離脱するまでにはある程度の時間を要することから、ビジネス界は対応に時間的余裕があるとした(「ニュー・ストレーツ・タイムズ」紙625日)。

 

 アジズCEOは、英国に対外直接投資している企業にはEU離脱による英国経済停滞の動きがあれば、その影響は如実に表れるとコメントした。「スター」紙は、同国に資産を持つコングロマリット(複合企業)のサイムダービーや、YTLコープ、カジノ大手ゲンティン・マレーシア、不動産開発大手SPセティアの業績に影響が出る恐れがあるとしている。一方、「ニュー・ストレーツ・タイムズ」紙は、リスクと同時に英国経済低迷に伴う不動産価格の下落やポンド安は、マレーシア企業の対英投資を促進させる可能性にも言及している。マレーシアは対英国投資残高が2016年第1四半期末時点で262億リンギ、構成比は4.3%と英国は6番目の投資国の位置付けにあり、投資額は少なくない(表2参照)。

表2 マレーシアの対外直接投資における英国の位置付け

 産業界の期待が大きく、まもなく交渉が再開されるEUマレーシアFTAについて、政府は英国が離脱しても交渉は続けるとする一方、協定の対象外となる英国については、ムスタパ国際貿易産業相は、マレーシアがEUとのFTA交渉とは切り離して、英国と個別にFTAを結ぶ可能性に言及している。

 

(新田浩之)

(マレーシア、英国)

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