EU離脱交渉で政府にFTA維持などを要求-英国産業連盟、政府が堅持すべき主要5原則を発表-

(英国)

ロンドン発

2016年07月26日

 メイ内閣が発足し、EU離脱交渉に向けた環境が整いつつある中、英国産業連盟(CBI)は7月21日、EUとの交渉を進めるに当たって政府が堅持すべき主要5原則を発表した。将来にわたる英国の成長に向け、EU域内外との貿易関係の維持・促進や、移民労働力の確保、EUと自由貿易協定(FTA)を締結している第三国市場への継続的なアクセスなどを念頭に交渉に当たるよう要求している。

EU単一市場へのアクセスを最優先>

 主要5原則は、会員企業500社以上からの聞き取りを踏まえ策定された。具体的な内容は以下のとおり。

 

1EU単一市場に引き続き参画できることが重要。特に、EU加盟国との間での無関税貿易の継続を実現することが政府の最優先課題であり、加えて、サービス分野でのEU市場へのアクセスの確保や、非関税障壁の最小化にも留意するよう強調している。

 

2)英国とEUとの規制環境の同等性を確保しつつも、EU規制への準拠が国内ビジネスに与える影響にも配慮する。金融、航空、デジタルサービス、エネルギー、医薬分野などでEU単一市場にアクセスするには、国内の規制環境をEUと同等に保つことが条件になることから、このような分野では引き続きEUとの連携を維持する必要があるとしている。一方で、英国の考えが反映されないEU規制に準拠することで、国内ビジネスに悪影響が及ぶ可能性もあるため、新たなEU規制・標準の議論に対して英国が影響力を行使するための長期戦略を立案するよう求めている。

 

3)移民労働力と技術にアクセスできるような移民システムを構築する。農業や医療分野で労働力が不足する中で、移民労働力への期待が大きいことから、まず、現在英国で働くEU加盟国からの移民労働者と、EU加盟国に居住する英国民の地位はEU離脱後も確保されるべきとしている。また、地域経済の活性化や将来の経済成長に寄与する学生など国際人材の確保の観点から、英国で学ぶEU国籍者と、EU加盟国で学ぶ英国民の現在の地位の保証も必要としている。

 

EUFTA継続適用を要求>

4)国際貿易・経済協定に関する戦略を構築する。英国の陶磁食器の輸出先の2位はEUとのFTA締結国である韓国であるなど、EUが第三国と締結しているFTAによる恩恵が大きいことから、EUが締結している、あるいは交渉中のFTAを通じた第三国へのアクセスがこれからも保証されるべきとしている。また、EU・米国間の航空路線の開設自由化を認めるオープンスカイ協定のようなEUが有する国際協定も、継続的に適用されるよう求めている。さらに、EU域外諸国との新たな貿易協定の締結に当たっては、世界中に広がる市場の優先順位付けが重要との認識を示している。

 

5EU基金に支援されているプロジェクトによる便益を保護する。インフラ整備や研究開発に大きく貢献しているEU基金による支援が制限される懸念があることから、現在EU基金の対象となっている分野における新たな投資戦略を策定することが必要としている。また、当面の対応として、既にEU基金による支援が確定しているプロジェクト、とりわけ完了がEU離脱後になると見込まれるプロジェクトへの支援が確実に受けられるよう保証することを求めている。また、EU加盟国との共同プロジェクトへの英国の参画可能性について明確にするよう主張している。

 

<ほかの産業団体からもさまざまな提言>

 同様の提言は既にほかの産業団体からもなされている。英国経営者協会(IoD)は、サービス分野におけるEU市場のアクセスや、EUFTAを利用した第三国へのアクセスなどを盛り込んだ提言を77日に公表した。71日には、英国小規模企業連盟(FSB)も政府に対する書簡を提出している。FSBは、CBIIoDと同様の内容に加え、国内各地に散らばる企業のニーズを反映させるために、スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、ロンドンの各行政府がEUとの交渉に十分に参加できるよう求めている。例えば、北アイルランドに拠点を置く企業にとっては、アイルランドとの国境線の取り扱いが大きな課題となる一方、ウェールズの企業からは、経済的に立ち遅れた地域に対するセーフガード措置を求める声が上がっているという。

 

(佐藤央樹)

(英国)

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