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(令和2年6月17日)令和元年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

(令和2年6月17日)令和元年度における独占禁止法違反事件の処理状況について

令和2年6月17日
公正取引委員会

はじめに

 公正取引委員会は,迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下,国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整,中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。
 特に令和元年度においては,大規模な価格カルテル事案や入札談合等関与行為事案について積極的に審査を行って法的措置を採るとともに,デジタル・プラットフォーマー等のIT・デジタル関連分野(注1)の事業者による単独行為事案について積極的な審査を行い,確約手続を制度運用開始後初めて適用するなど,社会的ニーズに的確に対応した事件に取り組んだ。
 令和元年度における独占禁止法違反事件の処理状況は,次のとおりである。

(注1) IT・デジタル関連分野の取組状況については後記第3及び別添1を参照。

第1 審査事件の概況

1 法的措置等の状況

(1) 排除措置命令等の状況

 令和元年度においては,独占禁止法違反行為について,延べ40名の事業者に対して,11件の排除措置命令を行った。排除措置命令11件の内訳は,価格カルテル6件,入札談合3件,不公正な取引方法2件となっている。価格カルテル・入札談合9件の市場規模は,総額6300億円超である。
 また,令和元年度においては,独占禁止法違反被疑行為について,2名の事業者に対して,2件の確約計画の認定を行った(注2)。内訳は,拘束条件付取引1件,私的独占及び競争者に対する取引妨害1件となっている。

(注2) 確約手続は環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)により導入された,独占禁止法違反の疑いについて,公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決するための手続である(平成30年12月30日施行)。

図1 法的措置(注1)件数等の推移

    (注1) 法的措置には確約計画の認定を含む。
    (注2) 私的独占と不公正な取引方法のいずれも関係法条となっている事件は,私的独占に分類している。

(2) 警告等の状況

 令和元年度においては,各事案の内容を踏まえて,迅速な処理を行うことにより競争秩序の早期回復を図った事案や事業者の自発的な措置を踏まえて調査を終了した事案についても,事案の概要を公表することにより,独占禁止法や競争政策上の問題点を広く周知するなどの処理を行った。

ア 違反の疑いのある行為が認められた2件について,関係事業者に対し,事前説明を行った上で警告・公表を行った(優越的地位の濫用:1件,拘束条件付取引:1件)。

イ デジタル・プラットフォーマーによる規約変更に係る事案1件について,事業者の自発的な措置を踏まえて調査を終了した(優越的地位の濫用:1件)。

図2 排除措置命令・確約計画の認定・警告等の件数の推移

(注)「打切り(自発的措置)」は,調査の過程において事業者の自発的な措置を踏まえて調査を終了した事案である。

(3) 課徴金納付命令の状況

 令和元年度においては,延べ37名の事業者に対して,総額692億7560万円の課徴金納付命令を行った。
 一事業者当たりの課徴金額の平均は18億7231万円(注3)であった。

(注3) 一事業者当たりの課徴金額の平均については,1万円未満切捨て。

図3 課徴金額等の推移

     (注) 課徴金額については,千万円未満切捨て。

図4 一事業者当たりの課徴金額(平均)の推移

      (注) 課徴金額については,1万円未満切捨て。

2 申告の状況

 令和元年度において,独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について,公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は,3,193件であった。
 申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には,申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ,令和元年度においては,2,910件の通知を行った。

図5 申告件数の推移

3 課徴金減免制度

  課徴金減免制度に基づき,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,令和元年度において,73件であった(平成18年1月の制度導入時から令和元年度末までの累計は1,310件)。
 また,令和元年度においては,価格カルテル・入札談合事件9件における延べ26名の課徴金減免制度の適用事業者について,これらの事業者の名称,減免の状況等を公表した(注4)。

(注4) 公正取引委員会は,法運用の透明性等の観点から,課徴金減免制度が適用された事業者について,課徴金納付命令を行った際に,当委員会のウェブサイトに,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている(ただし,平成28年5月31日以前に課徴金減免の申請を行った事業者については,当該事業者から公表の申出があった場合に,公表している。)。
 なお,公表された事業者数には,課徴金減免申請を行った者であるものの,①独占禁止法第7条の2第1項に規定する売上額(課徴金の算定の基礎となる売上額)が存在しなかったため課徴金納付命令の対象になっていない者及び②算出された課徴金額が100万円未満であったため独占禁止法第7条の2第1項ただし書により課徴金納付命令の対象になっていない者のうち,公表することを申し出た事業者の数を含めている。
 ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html

表1 課徴金減免申請件数の推移

(単位:件)
年度 25 26 27 28 29 30 累計
(注5)
申請
件数
50 61 102 124 103 72 73 1,310

(注5) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和2年3月末までの件数の累計。

表2 課徴金減免制度の適用状況

(単位:件,延べ事業者数)
年度 25 26 27 28 29 30 累計
(注8)
課徴金減免制度の適用が公表された
法的措置件数(注6)(注7)
12 4 7 9 11 7 9 145
課徴金減免制度の適用が公表された
事業者数(注7)
33 10 19 28 35 21 26 374

(注6) 本表における法的措置とは,排除措置命令及び課徴金納付命令であり,一つの事件について,排除措置命令と課徴金納付命令がともに行われている場合には,法的措置件数を1件としている。
(注7) 排除措置命令のみを行い課徴金納付命令は行わなかったものの,当委員会のウェブサイトに課徴金減免申請を行った旨を公表することを申し出た事業者が存在する事件又は当該事業者を含む。
(注8) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和2年3月末までの件数又は事業者数の累計。

第2 行為類型別の事件概要

1 私的独占

 令和元年度においては,放射性医薬品の製造販売業者による私的独占事件(注9)について,1件の法的措置(確約計画の認定)を採った。

(注9) 行為類型には不公正な取引方法を含む。

 ・ 日本メジフィジックス株式会社に対する確約認定

 公正取引委員会は,日本メジフィジックス株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知(注)を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認められたことから,当該計画を認定した。
 (注)確約計画の認定の申請をすることができる旨を記載した書面による通知をいう。
 ア 富士フイルムRIファーマ株式会社(以下「FRI」という。)が,フルデオキシグルコース(以下「FDG」という。)の製造販売業への新規参入に当たり,FDGの卸売を行う公益社団法人日本アイソトープ協会(以下「協会」という。)を通じて,全国一律価格ではなく,配達地域に応じた複数の価格(以下「地域別価格」という。)で同社が製造するFDGを販売しようとしていたところ,日本メジフィジックス株式会社は,平成29年5月頃,協会に対し,FRIと地域別価格によるFDGの取引をした場合には,自社が製造するFDG等の販売を停止する意思がある旨を伝えた。
 イ 日本メジフィジックス株式会社は,平成29年5月頃以降,FRIがFDGの自動投与装置の製造販売業者と共同開発したFDGの自動投与装置(以下「特定自動投与装置」という。)の導入があり得た南関東地区及び近畿地区所在の取引先医療機関に対し,特定自動投与装置において,自社が製造販売するFDGを使用できる可能性があったにもかかわらず,明確な根拠なく特定自動投与装置では使用できないと説明していた。
 ウ 日本メジフィジックス株式会社は,平成29年5月頃,FRIが製造販売するFDGを購入している南関東地区及び近畿地区所在の取引先医療機関から自社が製造販売するFDGの当日中の配送依頼を受けた際にはこれを拒否する旨の方針を定めて社内周知し,以後,当該方針に沿って依頼を拒否していた。
 (令和2年3月11日 確約計画の認定)

2 価格カルテル・入札談合

(1) 価格カルテル

 令和元年度においては,価格カルテル事件について,6件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。

 ア 炭酸ランタン水和物口腔内崩壊錠の後発医薬品の製造業者による価格カルテル事件

 炭酸ランタン水和物口腔内崩壊錠の後発医薬品の製造業者であるコーアイセイ株式会社と日本ケミファ株式会社が,仕切価について,日本ケミファ株式会社がコーアイセイ株式会社に対して提示した価格を目途とする旨を合意していた。
 (令和元年6月4日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:137万円)

 イ 舗装用改質アスファルトの製造販売業者による価格カルテル事件

 舗装用改質アスファルトの製造販売業者が,販売価格を引き上げ又は維持する旨を合意していた。
 (令和元年6月20日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:31億4098万円)
 なお,本件審査の過程において,舗装用改質アスファルトの製造販売業者3社が決定した舗装用改質アスファルトの需要者向け販売価格の引上げ額又は当該価格を維持すること等について,製造販売業者ら5社が,一部の地区において,前記3社と話し合っていた行為が認められたことから,独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定の違反につながるおそれがあるものとして,当該5社に対し,注意を行った。

 ウ アスファルト合材の製造販売業者による価格カルテル事件

 アスファルト合材の製造販売業者が,販売価格の引上げを共同して行っていく旨を合意していた。
 (令和元年7月30日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:398億9804万円)

 エ 特定アルミ缶及び特定スチール缶の製造販売業者による価格カルテル事件

 特定アルミ缶の製造販売業者が,安値により商権を奪い合わず,販売価格を維持する旨を合意していた。
 特定スチール缶の製造販売業者が,安値により商権を奪い合わず,販売価格を維持する旨を合意していた。
 (令和元年9月26日 排除措置命令(2件)及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:257億2356万円)
 なお,本件審査の過程において,食缶製造販売業者3社が,食缶(食品〔飲料を除く。〕又はペットフードの缶詰の容器として用いられる金属缶をいう。)の取引に関して,価格に関する情報交換等を行っていた事実が認められたことから,独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)の規定の違反につながるおそれがあるものとして,当該3社に対し,注意を行った。

 オ カルバン錠(医薬品)の販売業者らによる価格カルテル事件

 カルバン錠の販売業者又は製造販売業者である鳥居薬品株式会社と日本ケミファ株式会社が,仕切価を合わせる旨を合意していた。
 (令和2年3月5日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:287万円)

(2) 入札談合

 令和元年度においては,地方公共団体が発注する物品等の入札における談合事件について,3件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。
 このうち東京都発注の浄水場の排水処理施設運転管理作業に係る事件については,入札談合等関与行為防止法に基づく改善措置要求等を東京都に行った。

 ア 東京都が発注する浄水場の排水処理施設運転管理作業の見積り合わせ参加業者による談合事件

 東京都発注の浄水場の排水処理施設運転管理作業の見積り合わせ参加業者が,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
 (令和元年7月11日 排除措置命令及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:7418万円)

 ① 入札談合等関与行為防止法に基づく東京都知事に対する改善措置要求

 東京都の職員が,入札談合が認められた浄水場の排水処理施設運転管理作業について,契約に係る見積り合わせにおいて,見積り合わせ参加業者のうち特定の事業者の従業者に対し,見積り合わせ実施日前又は見積書の提出締切日前までに,非公表の予定単価に関する情報を教示していたことから,東京都知事に対し,浄水場の排水処理施設運転管理作業について,入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた。

 ② 東京都水道局に対する申入れ

 ①以外にも,東京都の職員が,浄水場の排水処理施設運転管理作業について,契約に係る見積り合わせにおいて,見積り合わせ参加業者のうち特定の事業者の従業者又は受注者となった事業者の従業者に対し,見積り合わせ実施日前まで又は見積り合わせ後に契約書の様式等の書類を交付する際に,非公表の予定単価に関する情報を教示するなどしていた事実が認められたことから,東京都水道局に対し,職員に独占禁止法及び入札談合等関与行為防止法のそれぞれの趣旨及び内容を周知徹底するとともに,見積り合わせ等の実態について点検し,必要な場合には改善を行うなどの所要の措置を講ずるよう申し入れた。

 イ 地方公共団体が発注する特定活性炭及び特定粒状活性炭の販売業者による談合事件

 東日本地区に所在する地方公共団体発注の特定活性炭の販売業者が,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにしていた。
 近畿地区に所在する地方公共団体発注の特定粒状活性炭の販売業者が,供給予定者を決定し,供給予定者が供給できるようにしていた。
 (令和元年11月22日 排除措置命令(2件)及び課徴金納付命令)
 (課徴金総額:4億3460万円)

3 不公正な取引方法

(1) 再販売価格の拘束

 令和元年度においては,育児用品の販売業者による再販売価格の拘束事件について,2件の法的措置(排除措置命令)を採った。

 ア アップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社の育児用品の再販事件

 遅くとも平成28年5月頃以降,次の行為を行うことにより,小売業者にアップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社の育児用品を同社が定める「提案売価」等と称する価格(以下「提案売価」という。)で販売するようにさせていた。
 ① 提案売価を下回る販売価格(以下「逸脱売価」という。)で販売している又は販売しようとしている小売業者を把握するため,次の行為を行っていた。
  ア 小売業者の販売価格を自ら定期的に調査していた。
  イ 小売業者のチラシの配布に先立ち,当該チラシに掲載される販売価格を自ら確認し又は取引先卸売業者をして確認させていた。
  ウ 取引先卸売業者及び小売業者から,逸脱売価で販売している小売業者に関する苦情を受け付けていた。
 ② 前記①の行為により,逸脱売価で販売している又は販売しようとしていることが判明した小売業者に,提案売価で販売するよう,自ら要請を行い又は取引先卸売業者をして要請を行わせていた。
 ③ 前記②の要請にもかかわらず,逸脱売価で販売し続ける小売業者に対しては,出荷を停止し,又は取引先卸売業者をして当該小売業者に対する出荷を停止させるなどしていた。
 (令和元年7月1日 排除措置命令)

 イ コンビ株式会社が販売する「ホワイトレーベル」と称する商品の再販事件

 遅くとも平成27年1月頃以降,コンビ株式会社が販売するベビーカー,チャイルドシート及びゆりかごのうち,「ホワイトレーベル」と称するブランドが付された商品(以下「ホワイトレーベル商品」という。)をコンビ株式会社が定める「提案売価」等と称する価格(以下「提案売価」という。)で販売する旨に同意した小売業者に自ら又は取引先卸売業者を通じてホワイトレーベル商品を販売することにより,小売業者にホワイトレーベル商品を提案売価で販売するようにさせていた。
 (令和元年7月24日 排除措置命令)

(2) 拘束条件付取引

 令和元年度においては,宿泊施設を掲載するウェブサイトの運営事業者による拘束条件付取引事件について,1件の法的措置(確約計画の認定)を採った。
 また,農業協同組合及び食肉の加工・卸売業者による拘束条件付取引事件について,独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから,警告を行った。

 ア 楽天株式会社に対する確約認定

 公正取引委員会は,楽天株式会社に対し,同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして,確約手続通知を行ったところ,同社から確約計画の認定申請があり,当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認められたことから,当該計画を認定した。
 ○ 楽天株式会社は,自らが運営する「楽天トラベル」と称するウェブサイトに宿泊施設を掲載する宿泊施設の運営業者との間で締結する契約において,当該ウェブサイトに当該運営業者が掲載する部屋の最低数の条件を定めるとともに,宿泊料金及び部屋数については,他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件を定めている。
 (令和元年10月25日 確約計画の認定)

 イ あきた北農業協同組合及び株式会社本家比内地鶏による拘束条件付取引事件

 あきた北農業協同組合及び株式会社本家比内地鶏は,平成17年4月頃から平成31年1月頃までの間,部会員が生産する比内地鶏の販売に関して,次の行為により,不当に拘束する条件を付けて取引していた疑い。
 ○ 部会員との間で
  ⑴ あきた北農業協同組合の指定する出荷先以外への出荷が無い者であること,比内地鶏の雛の数量に係るあきた北農業協同組合の定める導入計画を遵守できる者であること等の条件を満たす者と取引する旨
  ⑵ 前記⑴に違反した場合には契約を解除して出荷停止ができる旨 等を内容とする「比内地鶏委託販売契約書」と称する3者連名の契約を締結した上で
  ・ 前記⑴の出荷先を株式会社本家比内地鶏に限定する
  ・ 前記⑴の導入計画における雛の数量を株式会社本家比内地鶏の販売計画に合わせて調整する
などにより,部会員に対し,生産した比内地鶏を株式会社本家比内地鶏以外に出荷しないようにさせるとともに,導入する比内地鶏の雛の数量を遵守させている疑いのある行為を行っていた。
 (令和元年7月3日 警告)

(3) 優越的地位の濫用

 令和元年度においては,建築用金物等の卸売業者による納入業者に対する優越的地位の濫用事件について審査を行い,独占禁止法に違反するおそれがある行為が認められたことから,警告を行った。
 このほか,令和元年度においては,優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして29件の注意を行った(別添2参照)。

 また,アマゾンジャパン合同会社が,商品のポイント付与の原資をAmazonマーケットプレイスの出品者に負担させることについて,所要の調査を行ったところ,同社が規約を変更し,出品者の任意としたことから,調査を継続しないこととした。
 さらに,楽天株式会社が,いわゆる「共通の送料込みライン」と称する,出店事業者が一律に別途送料を収受し得ないこととなる施策を導入することについて,独占禁止法第19条の規定に違反する疑いがあり,緊急停止命令の申立てを行った。

 ア 丸井産業株式会社による優越的地位の濫用事件

 丸井産業株式会社は,遅くとも平成27年5月以降平成31年2月までの間,次の行為により,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭を提供させていた疑い。
 ⑴ 納入業者のうち171社に対し,自社の社員旅行の費用の一部に充てるため,当該納入業者が販売促進効果等の利益を得ることができないにもかかわらず,金銭を提供させていた。
 ⑵ 納入業者のうち19社に対し,自社の営業担当者への報奨金等に充てるため,当該納入業者が販売促進効果等の利益を得ることができないにもかかわらず,毎月の仕入金額に一定率を乗じて得た額の金銭を提供させていた。
 (令和元年5月15日 警告)

 イ アマゾンジャパン合同会社のポイント導入に係る優越的地位の濫用事件

 アマゾンジャパン合同会社が,Amazonマーケットプレイスの出品者との間のAmazonポイントサービス利用規約を変更し,出品される全ての商品について最低1パーセントのポイントを付与し,当該ポイント分の原資を出品者に負担させる旨の内容としたことについて,独占禁止法上の懸念があったため,所要の調査を行っていたところ,アマゾンジャパン合同会社が,上記規約の変更を修正し,商品をポイントサービスの対象とするか否かについて,出品者の任意としたため,当該規約変更に係る上記調査を継続しないこととした。
 (平成31年4月11日 公表)

 ウ 楽天株式会社によるいわゆる送料無料化に係る優越的地位の濫用事件

 楽天株式会社が,いわゆる「共通の送料込みライン」と称する,出店事業者が一律に別途送料を収受し得ないこととなる施策を導入することについて,独占禁止法第19条の規定に違反する疑いがあり,令和2年3月18日から同施策が実施されることになれば,公正かつ自由な競争秩序が著しく侵害されることとなり,排除措置命令を待っていては,侵害された公正かつ自由な競争秩序が回復し難い状況に陥ることになるとして,同施策の実施を一時停止することについて,同法第70条の4第1項の規定に基づき,楽天株式会社に対する緊急停止命令の申立てを東京地方裁判所に対して行った。
 公正取引委員会は,令和2年3月6日の楽天株式会社の公表等を受け,同月10日,上記施策について,出店事業者が参加するか否かを自らの判断で選択できるようになるのであれば,当面は,一時停止を求める緊急性が薄れるものと判断し,東京地方裁判所に対して行っていた緊急停止命令の申立てを取り下げた。
 なお,本件違反被疑行為に対する審査については,継続することとしている。
 (令和2年2月28日,3月10日 公表)

(4) 不当廉売

 令和元年度においては,酒類,石油製品,家庭用電気製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注10)を行い,不当廉売につながるおそれがあるとして235件の注意を行った(表3)。

(注10) 原則として,申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。

表3 令和元年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)

(単位:件)
  酒類 石油製品 家電製品 その他 合計
注意件数 63 162 2 8 235

図6 不当廉売事案の注意件数の推移

       (注) 注意件数は,下から①酒類,②石油製品,③家電製品,④その他の順に記載。

(5) その他(取引妨害等)

 その他の類型として,芸能事務所が,自らと競争関係にある芸能事務所に所属する芸能人の活動を妨害していた疑いがあったため,取引妨害等につながるおそれがあったとして注意を行った事例などがある。

第3 IT・デジタル関連分野における取組状況等

 公正取引委員会は,ITタスクフォース,農業分野タスクフォース,公益事業タスクフォース等を設置し,これらの分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に,専門的な検討・分析,効率的な調査を実施することとしている。
 令和元年度は,ITタスクフォース等において処理したIT・デジタル関連分野の2つの事案の処理結果を公表した(令和元年度のIT・デジタル関連分野における取組状況については,別添1を参照)。
 また,公正取引委員会は,IT・デジタル関連分野,農業分野,電力・ガス分野における,独占禁止法違反被疑行為に係る情報を広く受け付けるため,平成28年3月以降,順次専用の情報提供窓口を設置している。
 令和元年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は,IT・デジタル関連分野が180件,農業分野が24件,電力・ガス分野が45件となっている。
 情報提供窓口の電話番号等は,以下のとおりである。

<電話番号>
 IT・デジタル関連分野   03-3581-5492
 農業分野                     03-3581-3387(※)
 電力・ガス分野            03-3581-1760
  ※ 農業分野については,上記のほか,各地方事務所・支所にも窓口を設置している。

<情報提供フォーム>
 https://www.jftc.go.jp/cgi-bin/formmail/formmail2.cgi?d=nouden
  ※ IT・デジタル関連分野,農業分野,電力・ガス分野とも共通のアドレス

第4 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟(注11)

 令和元年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は10件(東京地方裁判所9件,東京高等裁判所1件)(注12)であったところ,同年度中に新たに3件の排除措置命令等取消請求訴訟が東京地方裁判所に提起された(このうち1件については併せて執行停止の申立てがなされた。)。
 令和元年度当初において東京地方裁判所に係属中であった9件のうち4件については,平成30年度中に判決(請求棄却が3件,一部認容が1件)があり,いずれも令和元年度中に上訴期間が満了するものであったところ,当該4件のうち1件が上訴期間の経過をもって確定した。その余の3件は令和元年度中に控訴され,うち2件(注13)は東京高等裁判所に係属中であり,うち1件は令和元年度中に同裁判所が控訴を棄却する判決をしたところ,上告受理申立てがなされ,最高裁判所に係属中である。前記9件のうち残りの5件中の4件については,令和元年度中に東京地方裁判所が請求を棄却する判決をし,当該4件のうち2件は上訴期間の経過をもって確定し,その余の2件は控訴され(うち1件は令和元年度末時点では上訴期間中であったが,令和2年度に控訴された。),東京高等裁判所に係属中である。
 また,令和元年度当初において東京高等裁判所に係属中であった1件については,同裁判所が控訴を棄却する判決をし,上訴期間の経過をもって確定した。
 これらの結果,令和元年度末時点において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は8件であった(別表第8表参照)。
 なお,前記執行停止の申立て1件については,令和元年度中に東京地方裁判所が却下の決定をし,同年度末時点で上訴期間中であったが,その後,上訴期間の経過をもって確定した。

(注11) 審判制度の廃止に伴い,平成27年度以降,独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟は,直接東京地方裁判所に提起する制度となっている。
(注12) 排除措置命令等取消請求訴訟の件数は,訴訟ごとに裁判所において付される事件番号の数である。
(注13) なお,当該2件は東京地方裁判所係属中に併合されたため,東京高等裁判所における事件番号が一つになったことから,以降は1件とした。

第5 審判及び審決等の概要

 令和元年度中に係属していた審判事件数(注14)は163件(うち82件は課徴金納付命令に係るもの)である。令和元年度においては,11件の審決を行った。内訳は,排除措置命令に係る審判請求棄却審決2件,排除措置命令を変更する旨の審決2件及び排除措置命令を取り消す旨の審決1件並びに課徴金納付命令に係る審判請求棄却審決2件,課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決2件,課徴金納付命令の一部を取り消すとともに課徴金の額を変更する旨の審決1件及び課徴金納付命令を取り消す旨の審決1件である。
 この結果,令和元年度末時点では152件の審判事件が係属中である。

(注14) 審判事件数は,行政処分に対する審判請求ごとに付される事件番号の数である。

図7 審判係属事件数の推移

1 排除措置命令に係る審決(令和元年度)

  ⑴ 審判請求棄却審決(2件)

・ 段ボール用でん粉の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの2件

  ⑵ 排除措置命令を変更する旨の審決(2件)

・ 優越的地位の濫用事件に係るもの2件

  ⑶ 排除措置命令を取り消す旨の審決(1件)

・ 段ボール用でん粉の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件

2 課徴金納付命令に係る審決(令和元年度)

    ⑴ 審判請求棄却審決(2件)

・ 段ボール用でん粉の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの2件

    ⑵ 課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決(2件)

・ 優越的地位の濫用事件に係るもの2件

    ⑶ 課徴金納付命令の一部を取り消すとともに課徴金の額を変更する旨の審決(1件)

・ 軸受製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件

    ⑷ 課徴金納付命令を取り消す旨の審決(1件)

・ 段ボール用でん粉の製造販売業者による価格カルテル事件に係るもの1件

第6 審決取消請求訴訟

 令和元年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注15)は8件であったが,令和元年度中に新たに3件の審決取消請求訴訟が提起されたため,令和元年度に係属した審決取消請求訴訟は11件である(別表第12表参照)。
 令和元年度においては,これらのうち,東京高等裁判所が,原告の請求を棄却する判決をしたものが1件(原告が上訴。なお,上訴した6上告人[申立人]中,2上告人[申立人]については,上訴を取り下げた。)あった。また,最高裁判所が,上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了したものが7件 (うち1件は,上記のとおり,同年度中に東京高等裁判所が請求棄却判決をして,原告が上訴したもの)あった。
 この結果,令和元年度末時点では4件の審決取消請求訴訟が係属中である。

(注15) 審決取消請求訴訟の件数は,第一審裁判所において番号が付される事件の数である。

関連ファイル

問い合わせ先

第1から第4までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第5及び第6に関する問い合わせ  公正取引委員会事務総局官房総務課(審判・訟務担当)
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/

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