英国がEU離脱すればGDPは1.2%低下の予測も-首相や経営者団体などは冷静な対応呼び掛け-

(オランダ、英国)

アムステルダム発

2016年06月29日

 英国のEU離脱が多数を占めた国民投票の結果を受けて、オランダの首相や産業経営者などの団体は冷静な対応を呼び掛けた。オランダは他のEU諸国に比べて英国経済との結び付きが強いだけに、経済への影響が懸念される。また、オランダでもEUへの不満は高まっており、2017年3月に行われる予定の下院選挙に向けた動向が注目される。

<賃金の低下や雇用の減少も>

 英国の国民投票の結果が明らかになった624日に、オランダのルッテ首相は声明を発表し、残念な結果だが、(英国の離脱から生じる)問題解決を着実に遂行していく必要がある、と冷静な対応を呼び掛けた。オランダ産業経営者連盟(VNONCW)、オランダ中小企業協会(MKB)、オランダ農業園芸組織連合会(LTO)は、英国民の選択は欧州とオランダにとって不確実な時代の始まりとなるが、解決策はある、とした。

 

 中央統計局(CBS)によると、2015年のオランダの英国への財およびサービスの輸出額は520億ユーロを超えた。対英輸出による収益額はオランダのGDP3%に相当する205億ユーロと、対ドイツ輸出の422億ユーロに次ぐ。対英輸出による収益額の内訳は、財輸出が96億ユーロ(GDP1.4%)、再輸出が26億ユーロ(0.4%)、サービス輸出が82億ユーロ(1.2%)となっている。原材料・中間財の輸入を伴わない、商業・運輸・倉庫、製造業、ビジネス・サービス分野を中心としたサービス輸出の比率が大きいため利益率が高く、輸出の収益額では隣国のベルギー向けを上回っている。

 

 経済政策分析局(CPB)は69日に発表したレポートで、EU離脱後の英国とEUとの協定の内容により影響の度合いは違うものの、協定が締結されない場合は対英輸出が減少し、英国のEU離脱はオランダの名目GDP2030年までに1.2%引き下げる可能性があると予測している。特に英国への輸出が多い加工食品、電気機器、自動車・同部品、化学品・ゴムおよびプラスチック分野で5%前後の生産減少に見舞われるとしている。また一部の産業では賃金の低下や雇用の減少も見込まれるとしている。

 

 CPBによると、英国がEUと自由貿易協定(FTA)を締結した場合、GDPの引き下げ幅は0.9%に抑えられるとしつつも、FTA締結は容易ではないとしている。英国のEU離脱により大きな影響を受けるのは、アイルランド、オランダ、ベルギーおよびルクセンブルクで、中・東欧および南欧諸国が受ける経済的な影響は比較的小さいとしている。このため英国とEUとのFTA締結内容について、EU全加盟国の合意を得ることは容易ではない。またEU離脱に関して英国と同様の国民投票を求める声は、スカンジナビア諸国や中・東欧諸国でも高まっており、EUは離脱の連鎖を防ぐため英国に厳しい態度で臨まざるを得ないとして、FTA締結の交渉も難しい問題になるとしている。

 

EUをめぐる問題が次期下院選挙の争点に>

 自由党(PVV)のヘルト・ウィルダース党首は624日に、英国民のEU離脱の決断を評価し、オランダでもEU離脱の是非を問う国民投票の実施を求める声明を発表した。自由党の国会(下院、150議席)での議席数は12にすぎないが、移民・難民問題への関心の高まりを背景に支持を伸ばしている。野党第1党で議席数15の社会党(SP)は、EU離脱は求めていないものの、現在の欧州委員会の路線を否定し、加盟国の主権、独自性が尊重されるよう改革されるべきと表明した。13議席を持つキリスト教民主同盟(CDA)も、英国の国民投票の結果は残念としつつも、現在のEUがロシア・トルコとの問題、難民問題に対応できておらず、細かな経済ルールよりもこれらの問題の解決に力を入れるべきとしている。VNONCWも共同声明の中でEUへの信頼を表明しつつも、移民問題などへの対応の必要性を指摘しており、20173月に行われる予定の下院選挙に向けてEUをめぐる問題が争点に浮上しそうだ。

 

 なお、627日付の「テレグラフ」紙は世論調査の結果として、EU離脱の是非を問う国民投票の実施に「賛成」が38%、「反対」が37%、国民投票が行われた場合に「残留支持」が51%、「離脱支持」が34%と報じている。

 

(岡田茂樹)

(オランダ、英国)

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