ロベーン首相、EU改革の必要性を強調-国内のEU離脱論の高まりを警戒-

(スウェーデン、英国)

ロンドン発

2016年06月30日

 英国の国民投票で注目された移民問題は、スウェーデンでも深刻化しており、有効な移民対策を打ち出せないEUに対する国民の不満は高まっている。ステファン・ロベーン首相は6月24日の記者会見で、「投票結果は残念。EUにとどまる方が英国は得るものが多い」としつつ、英国のEU離脱が自国に波及することを避けるべく、EU改革の必要性を強調した。

<極右政党と左派政党が英国民の選択を歓迎>

 英国の国民投票結果が判明した624日朝、夏至祭の祝日にもかかわらず、ロベーン首相とマグダレーナ・アンデション財務相の記者会見が行われた。首相は「残念な結果となった。英国はEUにとどまる方が得るものが多いだろう」と述べた。スウェーデンにとって英国はEU2番目に重要なビジネスパートナーであり、英国内にスウェーデン企業の子会社1,000社、スウェーデン人10万人が滞在しているが、「スウェーデンとEUの協調は変わらない。(ビジネスへの)影響は出てくるだろうが、輸出は英国向けよりEU全体向けの方が大きい」として、国民に動揺しないよう訴えた。アンデション財務相も「どのような影響が出るかは、英国とEUとの間で締結される協定次第だ。秩序ある財政と銀行の潤沢な資金があり、スウェーデン経済は強い」と強調した。

 

 首相は624日付の「ダーゲンス・インダストリー」紙に、英国の国民投票が「欧州にとって『モーニングコール』となる」とのコメントを寄せ、「投票結果には大きな意味がある。EUは今、改革を迫られている」とした。左派・左党のヨーナス・ショーステッド党首は、英国民のEU離脱決定を歓迎し、「今回の結果は欧州全体の協力体制の条件を変更させるものだ。予算の見直し、ユーロや社会保障憲章などへの不参加の容認など、スウェーデンのEU加盟条件を再交渉したい」と述べ、スウェーデンもEUとの関係を見直すよう首相に要求する意向を示した。

 

 野党・中央党のアニー・ローフ党首は「国民投票の結果は、いわゆるポピュリストを喜ばせるだろう」とした。同党首にポピュリストとして名指しされたスウェーデン民主党のジミー・オーケソン党首は、「明らかに自由と民主主義のための重要な勝利だ。長きにわたって、政策決定権が加盟各国の市民からブリュッセルの官僚達に奪われる過程を見せつけられた。これを打破し、より多くの国が同様の道を選ぶことを期待する」と述べた。極右と見なされている同党は、外国人排斥とEU離脱を訴え、2014年の前回選挙で野党第2党に躍進しており(2014年9月25事参照)、スウェーデンのEU離脱に向けた活動を活発化させていく意向だ。

 

EUの移民政策にくすぶる市民の不満>

 英国のEU離脱問題で最も懸念されているのがスウェーデンの国内世論への影響だ。英国が離脱すれば、移民の大半はスウェーデンに殺到するとの予測が市民の不安をかきたてる。特にEU非加盟国である隣国ノルウェーでは見掛けない、ルーマニアなど南東欧からの移民が首都ストックホルムのみならず地方にもあふれる中、未成年移民の急増による教員や教室不足(2016年1月13日記事5月9日記事参照)などに有効な移民対策を打てないEUへの不満が募っている。

 

 首相は記者会見の最後に、「スウェーデンでEU離脱に関する国民投票はあるか」という質問に対し、「全く考えていない」と答えたが、同日夜、公共放送のスウェーデン・テレビ(SVT)の番組は「スウェーデンもEUを離脱し、政治家は国家の決定権を持つべき」との市民の声を紹介していた。

 

 ただし、SVTが民間調査会社に委託して緊急のアンケート調査を実施したところ、「EU加盟の是非を問う国民投票を実施すべきか」との問いに、「すべき」と回答したのは30%にとどまり、56%が「すべきでない」と回答した(添付資料参照)。また、「国民投票が実施される場合、どちらに投票するか」との問いには、残留が52%で、離脱の31%を大きく上回った。また、「さまざまな点を考慮してスウェーデンがEUに加盟して良かったか」との問いには、48%が良かったと回答したものの、「現在のEUが良い方向に向かっているか」との問いに「良い」と答えた回答者は14%にとどまった。

 

(三瓶恵子、篠崎美佐、岩井晴美)

(スウェーデン、英国)

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