お知らせして参りましたとおり、当事務所は、クレディスイスAT1債を保有する日本人投資家を代理して、近日中にスイス国を相手方とする仲裁を申し立てる予定でおりますが、今般、投資家にとって非常に有利に働くと思われる情報に接しましたのでご案内させていただきます。
2025年10月1日、スイス連邦行政裁判所(FAC)は、クレディスイスAT1債保有者らが提起した訴訟のうちの一つにおいて、2023年3月19日付で金融当局(FINMA)が発したAT1債の全額償却命令が違法である旨の判決を下しました。
Unlawful write-off of AT1 capital instruments
裁判所が認定した主要な点は以下のとおりです。
- 無価値化の契約上および法的根拠が存在しないこと
- クレディ・スイスは十分な自己資本を有しており、契約上の「Viability Event」は発生していなかったこと
- FINMAが依拠した緊急政令(Emergency Ordinance)の条文は、財産権侵害を構成し憲法に反すること
本判決はスイス連邦最高裁に上訴可能であり、まだ確定したものではありませんが、当事務所が仲裁において主張することを予定していた論点を全面的に裏付ける内容であると考えております。
なお、本判決はAT1債の無価値化そのものを取り消すものではないため、AT1債の効力が復活するわけではなく、投資家の損失状態は継続しています。裁判所も、スイス国家に対する補償請求(State-liability claim)が適切な救済手段であると指摘しております。したがって、当事務所が国際仲裁を通じてスイス政府に損害賠償を請求する必要があることに変わりはないと考えております。(また、日本人投資家がスイス国内で訴訟を提起することは、期限を徒過しているため既にできない状態となっております。)
当事務所は、本判決が下されたことを踏まえ、その内容を主張内容に盛り込んだうえで、11月中に仲裁を申立てることを予定しております。
最後に、金融機関への損害賠償請求を行っている投資家については、当事務所へのご依頼にあたって当該請求を取り下げて頂いておりますが、本判決はそのような損害賠償請求の難易度を高める可能性があると考えております。
以上につきご不明な点がございましたら、以下までご連絡をいただきたく、よろしくお願いいたします。
森・濱田松本法律事務所 AT1債国際仲裁担当
mhm_at1@morihamada.com